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「魔性の子」表紙のネクタイカラーは何故変わったのか?②

(ネタバレ注意)
前回からの続き

同一のイラストレーターが「魔性の子」表紙を担当したにも関わらず、ネクタイカラーが24年の時を経て変わっている。しかも新版のほうが原作の文であるスカイグレイと異なる色になっている。これは何かの間違いなのだろうか?ドラゴンボールの背表紙にヤジロベーが2回出てくるのと同レベルのチョンボなのだろうか。



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何かの間違いだとするなら話は簡単なのだが、私はこの1200万部を超える人気シリーズに関わる人達がそんなに適当な仕事をするとは思えない。2019年に出版された十二国記シリーズの長編新作の登場は実に18年振りのことだった。このシリーズのファンは本当に熱心で、出版業界にとってちょっとした祭りにさえなった。丸善ジュンク堂という、本来なら競合である書店員達によって宣伝のための自作の冊子が作られた。ファン達の熱量のこもった宣伝文は、本当に愛された作品にしか書かれないものだ。私もそれを読んで興味を持った。新旧どちらの版も新潮社からの出版であり(講談社ホワイトハート文庫からシリーズ化された巻も多くあるが)、完全版と銘打った編集担当者もファンの期待に応えるべく仕事をしたはずだ。というか、そうだと信じたい。


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表紙のネクタイカラーの違いが、何かの間違いでは無い理由は他にもある。イラストレーターの山田章博氏は30年近く、一貫して十二国記の担当であり続けている。旧版の表紙を描いた以上、新版の表紙もその際に参考にしたことは想像に固くない。彼は季刊コミッカーズ2004年秋号p.40のインタビューで以下のように答えていらっしゃる。


--挿絵の場合、気をつけていらっしゃることは?
基本的には小説に書かれていることを目で見られるようにするのがイラストだと 思っていますのでできるだけ勝手な自己解釈は加えないようにします。 僕の個人的な考えなんですが、せっかくの小説作品にマイナスポイントを付けてしまうのがイラストだと思っているんですよ。 本当だったら無限に広がる解釈を許すような、自由に空を飛んでいるようなものを、重りをつけて地面に下ろすような作業だと。『 十二国記』の場合も、作品内容は従来のレーベルの路線とは異色のものだったし、作品が要求する絵ば本来ならライトノベルらしからぬ絵のはずだった。でも『十二国記』に関しては逆に軽い絵がつかないといけないと思ったんですよ。そうでないと本当に読んで欲しい層に読んでもらえにくいんじゃないかと。だから、せっかく高尚で、想像の余地が沢山ある作品を、わざわざ軽く見せるためにイラストをつけたという感じです。



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このインタビューから、山田章博氏の考えるイラストレータとしての謙虚な姿勢が伺える。
「勝手な自己解釈は加えない」のだ。
更に、これ以外の文からも、漫画など自身の作品の場合は企画書から作成するほど、人との連携を重視する仕事をされている。やはり、表紙のネクタイカラーを間違える人にはどうしても思えないのだ。担当編集者や原作者も含めた、彼らの明確な意図があるはずだ。

続く